おおいそがし

忙しい。
おそろしく忙しい。
あと、もう少しで60次隊が昭和基地へやってくる。
しらせは順調にこちらへ向かってきている。(参照:「進め!しらせ」

しらせがやってくるまでに、持って帰る荷物の準備もしなきゃだし、運ばれてくる荷物の置き場も作っておかないとだし、もちろん夏隊が暮らす夏宿も使えるようにしとかなきゃいけない。
「持って帰る荷物」といっても、スチコン(参照:「南極に行きたい変わりもの」)単位なので、各棟にそのスチコンを配布するために、まずは除雪をする必要がある。
トラックが走れるような道も除雪して作っておく必要がある。
去年、昭和基地へ到着したとき、「雪すくなっ!」と思った記憶があるが、少なかったのはそれだけ除雪の努力があったからなのだということを痛感する。

パワーショベルですくった雪をクローラーダンプに積んで運んだり、ブルドーザーで雪を押したり、重機による除雪がメインになってくるんだけど、雪の上に砂をまいておくだけでも雪の減り方は劇的に早くなる。
白い雪は太陽光を反射してしまうけど、真っ白な雪面に砂をまいて茶色くすると反射率が下がり雪はとけていく。つまり、砂をまくことでアルベド(天体の外部からの入射光に対する、反射光の比)を下げているわけだ。
地学の授業で「アルベド」という言葉は教えるけれど、これほどまでにアルベドの差による効果を実感できてちょっと感動。
たとえば、、
一時はこれくらい雪で埋もれた重力計室入り口だったけど、、、

砂をまいておくと

こんなになっちゃう
沈まぬ太陽は私達が眠っている間にも着々と雪をとかしてくれている。

ながらく見なかった土の地面が昭和基地の中に増えてきた。

気温もマイナスばっかりだったけど、ついにプラスになる日がチラホラ増えてきた。場所によっては今日本の方が寒いくらいではないだろうか。

12月に入って海氷ルートも閉鎖となり、雪上車で沿岸へ出かけることもできなくなった。
12月1日、抱卵期のペンギンセンサス(参照:「2018年最後のサンセット」)にはスノーモービルで出かけた。
この日に行ったのは、めちゃくちゃ大きなルッカリーのあるルンパという島。
島の中には3カ所ほどルッカリーがあるのだが、一番大きなルッカリーはカウンターを使って数える方法ではなく写真撮影して写真から判断する方法がとられている。
どんな写真かというと、、、

ゴマ?

いやいや、ペンギンです。

もう、そりゃ、カウンターで数える気なんておきないくらいウジャウジャいる。

小さいルッカリーは、こんな感じ↓

すぐそばにはナンキョクオオトウゾクカモメ(トウカモ)の巣もあった。
「巣」といっても、石が積み上げてあるとか枝がワサワサしているとか特に何かがあったりするわけではない(そもそも南極に木はないので、イメージする鳥の巣っぽいものの材料となりそうな枝はない)。
何故そこが巣とわかったかというと、我々がトウカモに近づいた時、逃げずにギャーギャーとうるさく威嚇してきたので見てみると、卵らしき物体が転がっていたのだ。

トウカモはペンギンのヒナや卵を狙うペンギンの天敵。
卵を抱く親トウカモのお尻の下あたりには、何年ものかと思うくらいカピカピなペンギンのミイラがあった。
トウカモ母ちゃんはそんなこと気にもしていない様子。

トウカモ目線からいうと、この住まいは食べ放題のバイキングレストランのすぐ近所という好立地条件なのだ。
トウカモは食物連鎖の頂点にいる子なので隠れたりする必要もなく、唐突に何でもないとこにいきなり座ってる。

ペンギン達は数で勝負といった感じ。
隣の子が食べられてもウチの子が食べられなかったらラッキー的なものだろうか。数的に考えても、ここに産まれるペンギンのヒナ達が1組のトウカモ夫婦のエサとして全滅することはないハズ。
自然の摂理とでも言ったらよいのだろうか。
カピカピのペンギンミイラがあちこちに散乱する中、抱卵するペンギン達と、抱卵するトウカモがすぐそばで共に暮らしている様子はなんともいえない不思議な光景だった。

ルンパの後は、11月に行った弁天島にも行ってみた。
3羽のペンギンがいたあの複雑な雰囲気のルッカリーだ(参照:「2018年最後のサンセット」)。
ちゃんと卵を抱いている子が1羽いた!

三角関係も収拾がつき?1羽は消え去り、おそらく夫婦の片割れはエサを食べに海へ出ている。
そして、この弁天島にもトウカモ夫婦が1組いた。

この関係はキビしいだろう。
トウカモvsペンギンが1対1なんて、、、
せっかく三角関係を乗り越えて卵を授かったペンギンだけど、ヒナが大きくなるまで守られる確率は低そうだ。
トウカモにしても唯一のエサなんだから見逃すわけにはいかないだろう。
カワイイ方に同情し、そうでない方が天敵扱いという構図は人間の勝手な見方なのかもしれない。
がんばれ!アデリー
がんばれ!トウカモ
みんな命をつなぐため、必死にがんばっている。